
「私用メールと解雇」
質問
私は,就業時間中,会社のパソコンを使って私用のメールをたびたび送受信していますが,このような行為は,解雇等の理由となるのでしょうか。
パソコンの普及・情報伝達技術の発展により,電子メールを使って知人と連絡をとったり,インターネットで情報を集めたりすることが容易にできるようになりました。そして,労働者が就業時間中に業務と関係なく,私用目的で電子メールやインターネットを使うことも,現実に頻繁に行われています。
しかし,労働者は就業時間内には労働契約に基づきその職務を誠実に履行するという職務専念義務をおっています。
そこで,就業時間中に労働者が私的な目的で電子メールやインターネットを利用することが,職務専念義務に反しないか,問題となります。
私用メールを理由とする懲戒処分が争われた判例として,まず日経クイック情報事件(東京地裁2002(平成14)年2月26日判決・労働判例825号)があげられます。これは,使用者が,他人を誹謗中傷するメールの発信元の調査のため,労働者のメールをモニタリングしたため,労働者が使用者に対し損害賠償等を求めたという事案です。
この事件では,判例は,「私用メールは,送信者の文書を考え作成し送信することにより,送信者がその間職務専念義務に違反し,かつ,私用で会社の施設を使用するという企業秩序違反行為を行うことになる」として,私用メールが一般的に懲戒処分の対象になりうるとしました。
また,就業時間中の私用メールを理由のひとつとしてなされた解雇の無効が争われた事件として,グレイワールドワイド事件(東京地裁2003(平成15)年9月22日判決・労働判例870号)があります。
この事件で,裁判所は,「労働者は,労働契約上の義務として就業時間中は職務に専念すべき義務をおっているが,労働者といえども個人として社会生活を送っている以上,就業時間中に外部と連絡を取ることが一切許されないわけではなく,就業規則等に特段の定めがない限り,職務遂行の支障とならず,使用者に過度の経済的負担をかけないなど社会通念上相当と認められる程度で使用者のパソコンを利用して私用メールを送受信しても上記職務専念義務に違反するものではない」とし,就業規則上私用メールが禁じられていなかったこと,労働者の送受信したメールが1日あたり2通程度であったことから,職務専念義務違反にあたらないと判断しています。
また,モルガン・スタンレー・ジャパン・リミテッド事件(東京地裁2004(平成16)年8月26日決定・労働判例881号)においても,懲戒解雇の一事由として私用メールがあげられており,解雇の有効性が争われています。この事件は,金融商品の販売に従事していた労働者が,金融商品の会計処理をめぐって個人的に訴訟をおこし,その訴訟について顧客にメールを送信したものです。
この判例では,「限られた私的目的を除いて業務以外の情報通信システムの利用を禁じた行為規範(就業規則)に違反するものであり,債務者(使用者)の懲戒権が及ぶ」としつつ,労働者が当該電子メールの中で,労働者が使用者と無関係に訴訟を行っていることを表明していることなどを理由に,使用者の信用等が毀損されたとはいえないとして,「解雇は重きに失するというほかはない」としています。
これらの判例からは,私用メールと職務専念義務について,判例の考え方は必ずしも確立しているとはいえないようです。ただ,私用メールを送受信したことが懲戒事由に直結すると考えるものではなく,そのメールの頻度や内容等を考慮し,職務遂行の支障となるか否かを具体的に判断する必要があると考えられます。
(弁護士 根英樹)
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