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Q&A
セクシャル・ハラスメントと解雇

質問

 私は,会社の上司からたびたびセクハラを受け,これに抗議したところ,仕事を辞めるようにさまざまないやがらせを受けています。このような行為は許されるのでしょか。また,私にセクハラをした上司の方をやめさせるべきではないかと思うのですがどうでしょうか。


 セクシャル・ハラスメント(セクハラ)とは,性的ないやがらせのことをいいます。
  使用者は,労働者にとって働きやすい環境を保つよう配慮する注意義務がありますから,職場でセクハラ行為が行われることのないよう,防止する義務があります。
  男女雇用機会均等法11条1項は,「事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」とし,使用者のセクハラ防止,セクハラ対策に関する措置義務を明らかにしています。
  また,「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上配慮すべき事項についての指針」(1998(平成10)年3月13日労働省告示20号)では,使用者のセクハラ防止義務として,事業主の方針の明確化及びその周知・啓発,相談・苦情への対応,事後の迅速かつ適切な対応,その他当該女性労働者のプライバシー保護や相談・苦情の申し出による不利益扱いを受けないようにすること等を配慮すべきとしています。
  判例でも,京都セクハラ事件(京都地裁1997(平成9)年4月17日判決・労働判例716号)は,男性従業員が女子更衣室をビデオカメラで盗撮していた等の行為が問題となった事案ですが,「被告会社は,雇用契約に付随して,原告のプライバシーが侵害されることがないように職場の環境を整える義務がある」として,使用者の債務不履行責任の根拠としています。
  しかし,セクハラの被害者となったことで,職場内で孤立するなどし,解雇や退職強要に追い込まれる例も少なくありません。

 東京セクハラ事件(東京地裁1999(平成11)年3月12日判決・労働判例760号)は,労働者Aが,上司Bにセクハラを受けたため会社代表者に訴えたところ,個人的な問題であり当事者同士で解決するよう言われたため,Aは弁護士に依頼し示談したのですが,その後もAとBの紛争が続いたため,会社代表者は,AがBと私的ないさかいを蒸し返して職場の秩序を乱したこと等を理由に,Aに対し,Bとともに依願退職するよう求め,Aは退職届の提出には応じなかったものの,結局就労を続けることを断念したものです。Aは,違法に解雇されたとして,不法行為に基づく損害賠償を請求しました。
  裁判所は,まず会社の行為が解雇にあたるとした上で,Bがセクハラ行為を行ったことは動かしがたい点,AがBに対してした行為が不相当なものであったとしても,それはBのセクハラ行為及びその後の対応に起因するものであった点を指摘し,「右の各点を考えると,原告(A)の前記行為は,被告(会社)の定める就業規則懲戒解雇事由または解雇事由に形式的に該当するとしても,原告が前記行為に及んだ原因,行為の態様,被告の事務を阻害した程度に照らすと,解雇されてもやむを得ないものということはできないから,本件解雇は,正当な理由を欠くものであり,解雇権を濫用した無効のものといわざるを得ない」と判断しました。

 また,有限会社D事件(大分地裁2002(平成14)年11月14日判決・労働判例844号)では,会社代表者により女性従業員に対し強制わいせつ等のセクハラ行為がたびたび行われ,女性従業員がこれに対し厳しい態度をとりはじめたため,協調性を欠く等の理由で,これを解雇したものです。本件では,会社代表者が被告とされ,不法行為上の損害賠償請求がされています。
  裁判所は,セクハラ行為の存在を認定し,本件解雇は,原告が被告からセクハラ行為を受けないために,被告に対し厳しい態度を取り始めたことから,被告もこれに反応して,事務所内の雰囲気が悪化し,その中で,原告が仕事に関しても被告に対して反抗的な態度を示したためになされたものであるが,この原告の態度は被告のセクハラ行為に起因するものであるから,就業規則所定の事由がないとして,本件解雇を違法なものと認めました。

 逆に,セクハラの加害者についても,懲戒解雇の対象とされることがあります。就業規則の懲戒解雇事由の一つとして,「相手方の望まない性的言動により,円滑な職務遂行を妨げたり,職場の環境を悪化させ,またはその性的言動に対する相手方の対応によって一定の不利益を与えるような行為を行ったとき」等と明記している企業も多いことでしょう。

 セクハラの加害者に対する解雇の有効性が争われた例として,コンピューター・メンテナンス・サービス事件(東京地裁1998(平成10)年12月7日判決・労働判例751号)があります。
  この事件では,労働者が,派遣先の女性従業員に対したびたびセクハラ行為を行い,それが次第にエスカレートして暴力的なものに及び,派遣を拒否されるに至ったため,使用者は就業規則の「素行不良により,会社施設内で風紀秩序を著しく乱した者」「懲戒が数回に及んでも改悛の見込みがなく,または前条に該当してその情の重い者」等にあたるとして懲戒解雇しました。労働者は,セクハラの事実を否認するとともに,十分な弁明の機会も与えずに解雇したとして,解雇権の濫用にあたり無効であると主張したものです。
  裁判所は,セクハラ行為を認定して,上記の就業規則の規定に該当するとし,一方,会社としても,解雇に至るまで,検討を重ね,労働者に対して具体的な事実を指摘して弁明の機会を与えており,労働者としては反省の態度を示す機会もあったとして,「解雇事由を全体としてみた場合の重大性や,解雇前に注意や警告を受けたのにこれに対する反省がないということからすれば,右のような評価すべき点があるからといって,被告による解雇が著しく不合理であって,社会通念上相当なものとして是認することができないとはいえず,解雇権の濫用ということはできない」と判断しています。

 また,大阪観光バス事件(大阪地裁2000(平成12)年4月28日判決・労働判例789号)は,観光バス会社の運転手が,取引先の女性添乗員及び会社の女性従業員に対しセクハラ行為を行い,事情聴取を受けた際にも反抗的態度をとったとして,就業規則の「風紀濫用等により職場の規律を乱したとき」という規定に該当するとして懲戒解雇されたため,解雇の有効性が争われたものです。
  裁判所は,セクハラの事実を認定し,とくに女性従業員に対する行為については,「その一部は勤務中のことであったし,勤務終了後の行為についても,古参の運転手という立場で入社間もない女性にしつこく迫って誘い出すなどしている」と,悪質性がつよいことを認定しています。そして,就業規則の規定に該当するとした上で,「本件解雇はやむを得ない選択というほかなく,相当としてこれを是認することができる」としています。

(弁護士 根英樹)

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