
「業務命令違反による懲戒解雇(配転命令拒否)」
質問
私は,会社から別の事業所に移転するよう内示されましたが,この事業所にはいまの住居から遠すぎて到底通勤できません。この事業所の近くに引っ越すことは,夫と別居することになるので,できません。
配転を拒否することはできるでしょうか。また,拒否したことによって解雇されることはあるのでしょうか。
業務命令違反はたいていの会社の就業規則に懲戒解雇事由としてあげられており,例えば「正当な理由なく,しばしば業務上の指示・命令に従わなかったとき」といったように規定されます。
判例上,業務命令違反が問題となったケースとして,配転(後述のケンウッド事件のほか,日経団総合コンサルティング事件・東京地裁2000(平成12)年4月11日判決・労働判例797号),出向(ゴールド・マリタイム事件・大阪高裁1990(平成2)年7月26日判決・労働判例572号),転籍(三和機材事件・東京地裁1992(平成4)年1月31日決定・判例時報1416号),時間外労働(日立製作所武蔵工場事件・最高裁1991(平成3)年11月28日判決),年休(時事通信社事件・東京高裁2000(平成12)年2月18日決定・労働判例776号)など,多数あります。
ここでは,業務命令違反の一例として,配転命令拒否をとり上げます。
配転とは,従業員の配置の変更であって,しかも職務内容または勤務地が相当の長期間にわたって変更されるものをいいます。
配転命令違反による懲戒解雇の有効性は,基本的には,配転命令自体の適法性の問題に帰着します。すなわち,違法な配転命令を拒否したことによる懲戒解雇については無効とされますが,配転命令が適法であれば,それを拒否したことを業務命令違反としてなした懲戒解雇も有効とされることが多いのです。ただし,配転命令が適法であっても,その拒否に対する解雇という処分が重すぎるとか,あるいはその後に新たに生じた経緯によって,解雇が権利濫用にあたることはありえます。例えば配転命令が権利濫用に該当しないとしつつ,懲戒解雇に至る経緯として,労働者に必要な情報提供をしておらず,必要な手順を尽くしていないとして,権利濫用にあたり解雇無効とした例があります(メレスグリオ事件・東京高裁2000(平成12)年11月29日判決・労働判例799号)。
配転命令の有効性については,配転命令権の根拠があり,配転命令権の範囲内であること,権利濫用にあたらないことが必要となります。例えば,職種や勤務地域を限定されて労働契約が締結されている場合には,その限定の範囲を超えることはできません。また,配転命令権の範囲内であっても,権利濫用にあたる場合には,配転命令は無効です。権利濫用にあたるか否かは,配転の業務上の必要性の程度と,配転によって労働者がこうむる不利益の程度とを比較考量して判断されます。
配転命令拒否による懲戒解雇の有効性が争われた近時の重要な判例として,ケンウッド事件(最高裁2000(平成12)年1月28日第3小法廷判決・判例時報1075号)があげられます。
本件は,東京都品川区に居住し,目黒区の事業所で勤務する女性労働者が,八王子の事業所への配転命令に対し,通勤時間が長くなり,3歳の幼児の保育園送迎ができなくなるとして拒否した結果,懲戒解雇されたものです。
裁判所は,本件では就労場所を限定する旨の合意はなかったと判断し,「転勤命令は,業務上の必要性が存しない場合または業務上の必要性が存する場合であっても不当な動機・目的を持ってされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく越える不利益を負わせるものであるとき等,特段の事情の存する場合でない限りは,権利の濫用になるものではない」とし,本件では,「配転命令には業務上の必要性があり,これが不当な動機・目的をもってされたものとはいえない。また,これによって労働者が負うことになる不利益は,必ずしも小さくはないが,なお通常甘受すべき程度を著しく超えるとまではいえない」として,本件の異動命令を適法としています。ただし,補足意見として,結論を異にするものではありませんが,「とりわけ未就学児童を持つ高学歴とはいえない女性労働者の現実に置かれている立場にはなお十分な配慮を要するのであって,本判決をもってそのような労働者であっても雇用契約締結当時予期しなかった広域の異動が許されるものと誤解されることがあってはならないことを付言しておきたい」としています。
(弁護士 根英樹)
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