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Q&A
「経歴詐称による懲戒解雇」

質問

 高校中退の学歴を高校卒と偽って入社した場合,懲戒解雇事由にあたるのでしょうか。


 労働者の経歴は,その労働者の能力や職務への適合性を判断する材料となるとの立場から,使用者が労働者の経歴の申告を求めることが少なくありません。判例は,使用者に労働者が自己の経歴に関して真実を告知する義務を負っているとしています(弁天交通事件・名古屋高裁1976(昭和51)年12月23日判決・労働判例269号)。この義務違反を根拠に,懲戒解雇される場合がしばしばあります。

(1) 学歴詐称
  労働者の学歴は,一般的に,職務内容の適格性や資質,他の労働者との均衡等の理由から,採否・労働条件の決定に影響を及ぼす重要な経歴にあたると考えられてきました。
  学歴を詐称した場合,実際よりも高く申告した場合はもちろん,低く申告した場合でも懲戒解雇事由に該当しうることになるため,注意を要します。

  学歴詐称による懲戒解雇を肯定したものとして,スーパーバッグ事件(東京地裁1979(昭和54)年3月8日判決・労働判例320号,新制高等学校以下の学歴を採用する会社に,短大卒を高卒と偽り,5年7ヶ月の職歴を秘匿して入社)があります。

  逆に,詐称があっても,それが採否や入社後の処遇に影響を与えない場合には,懲戒事由にあたらない,あるいは解雇が社会的相当性を欠き無効とされることもあります。
  三愛作業事件(名古屋地裁1980(昭和55)年8月6日決定・労働判例983号)では,大学中退を高校卒業と偽って入社した港湾作業員に対する試用期間中の解雇につき,学歴詐称が懲戒解雇事由にあたることは認めつつ,港湾作業という職務上,学歴は二次的な位置づけと見られることなどから,解雇は著しく妥当性を欠くとして無効としました。

(2) 職歴詐称
  職歴は,労働者の能力や採用後の会社の指導監督方法に大きく影響するため,一般的に,採否・労働条件の決定に影響を及ぼす重要な経歴にあたると考えられます。

  職歴詐称による解雇を有効としたものとして,生野製作所事件(横浜地裁川崎支部1984(昭和59)年3月に30日判決・労働判例430号,長年溶接工をしていたと偽り入社したものに対する諭旨解雇)があります。

  職歴についても,実際にはない職歴をあるように偽って申告した場合はもちろん,実際にある職歴を内容を偽って申告した場合も,懲戒解雇事由に該当しうることになります。都島自動車商会事件(大阪地裁1987(昭和62)年2月13日決定・労働判例497号)では,タクシー会社にタクシー乗務員の経歴を秘して入社したことが問題となりましたが,会社は未経験者を採用する方針をとり,経験者については従前の勤務先に問い合わせたあと採否を決定することとしており,採用時に職歴が判明していれば,従前の勤務先に稼働状況を問い合わせ,採否はもちろん,採用後の指導監督にも重要な差異が生じていたとして,懲戒解雇を有効としています。しかし,過去に経験があったことは,本来プラスに評価されることであり,その上採否の判断にあたり,タクシー会社が労働者の承諾なく,従前の勤務先に問い合わせをする権限があるとする点も問題があります。この判決には,個人のプライバシーの保障が重視される今日においては多くの疑問があります。

(3) 犯罪歴
  豊橋総合自動車学校事件(名古屋地裁1981(昭和56)年7月10日判決・判例時報1023号)では,窃盗罪の犯罪歴を秘匿したことを理由とする懲戒解雇について,当該犯罪歴は採用から18年前のものであり,秘匿についての作為性も少ないことから,これを理由にして懲戒解雇することは著しく過酷に失し,社会通念上妥当とはいえないとして,解雇を無効と判断しています。

 炭研精工事件(東京高裁1991(平成3)年2月20日判決・労働判例592号,最高裁1991(平成3)年9月19日判決・労働判例615号)では,大学中退の経歴を秘匿して高卒と申告するとともに,成田空港反対闘争に参加し懲役刑を言い渡された事実を秘匿したことが懲戒解雇事由にあたるとされました。

(4) 採用後長期間経過の場合
  経歴詐称の事実が採用後長期間経過してから判明した場合でも,重要な経歴詐称の場合は,懲戒解雇が有効とされる余地はあります。ただ,経歴詐称の事実が判明したにもかかわらず,とくに処分が行われることもなく長期間が経過していた場合には,懲戒解雇が相当性を欠くとされる場合が多いと考えられます。


(弁護士 根英樹)

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