
「整理解雇」
質問
勤務先の会社は,業績不振が続いたため,私の配属されている部門が閉鎖されることになり,私に対し,就業規則の「やむを得ない事業上の都合によるとき」にあたるして解雇すると通告してきました。しかし,会社が苦しい状態なのはわかりますが,会社の一方的な都合で,何も悪いことをしていない私が解雇されるのはどうしても納得いきません。
このような解雇も許されるのでしょうか。許されるとすれば,どのような場合ですか。
(1) 整理解雇とは何か
本件の質問者のケースのように,企業経営の悪化を理由とする解雇を,整理解雇といいます。
就業規則では,普通解雇事由として,「事業の運営上のやむを得ない事情または天災事変その他これに準ずるやむを得ない事情により,事業の継続が困難となったとき」,「事業の運営上のやむを得ない事情または天災事変その他これに準ずるやむを得ない事情により,事業の縮小・転換または部門の閉鎖等を行う必要が生じ,他の職務に転換させることが困難なとき」等と規定されているでしょう。
整理解雇は,労働者に何ら責められるべき点がないにも関わらず,解雇という重大な不利益を課する点に特徴があり,その有効性も,厳格な要件のもとで判断されるべきものと考えられます。
(2) 整理解雇の4要件
整理解雇の有効性については,4つの要件を充足していない場合には,解雇権の濫用として,有効とは認められないとする判例法理が確立しています。
この整理解雇の4要件について明らかにした判例として,大村野上事件(長崎地裁大村支部1975(昭和50)年12月24日判決・判例時報813号),高裁レベルのものとして,東洋酸素事件(東京高裁1979(昭和54)年10月29日判決・労働判例330号)があります。
いわゆる整理解雇の4要件の内容については,以下のとおりとされています(菅野和夫著「労働法」第7版・弘文堂
2005年4月)。
「第1は,人員削減の必要性である。すなわち,人員削減措置(これを内容とする企業の縮小,整備,合理化計画)の実施が不況,斜陽化,経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づいていること,ないしはやむをえない措置と認められることである。
第2は,人員削減の手段として整理解雇(指名解雇)を選択することの必要性である。すなわち,人員削減を実現する際には,使用者は,配転,出向,一時帰休,希望退職の募集などの他の手段によって解雇回避の努力をする信義則上の義務(「解雇回避努力義務」を負うとされている。そして,配転,任意退職の募集などの他の手段を試みずにいきなり整理解雇の手段に出た場合は,ほとんど例外なくその解雇は解雇権の濫用とされている(たとえば,あさひ保育園事件−最高裁1983(昭和58)年10月27日第一小法廷判決・労働判例427号)。ただし,指名解雇を回避するためにどのような手段をどのような手順で試みるかについては,個別状況を離れた画一的要件を設定すべきではなく,裁判所は,企業が採択した手段と手順が当該人員整理の具体的状況のなかで全体として指名解雇回避のための真摯かつ合理的な努力と認められるか否かを判定すべきであろう。たとえば,経営危機に瀕しての緊急避難型整理解雇と,積極的リストラとしての経営戦略型解雇とでは,後者の方が当然に整理解雇回避の努力は手厚くなされるべきこととなる。
第3は,被解雇者選定の妥当性である。何名かの労働者の整理解雇がやむなしと認められる場合にも,使用者は被解雇者選定については,客観的で合理的な基準を設定し,これを公正に適用して行うことを要する。かくして基準を全く設定しないでなされた整理解雇や,裁判所が客観的で合理的でないとみなした基準による整理解雇は無効とされている。
第4は,手続の妥当性である。労働協約上,解雇一般または人員整理について,使用者に組合との協議(場合によっては同意を得ること)を義務づける条項がある場合には,具体的な人選の基準や当否について十分な協議を経ないでなされた解雇が協約違反として無効となることは,古くから争いがない。しかし近時の裁判例は,そのような協約上の規定がない場合にも,使用者は労働組合または労働者に対して整理解雇の必要性とその時期・規模・方法につき納得を得るために説明を行い,さらにそれらの者と誠意をもって協議すべき信義則上の義務を負うとしている。」
各要件の関係としては,人員削減の必要性と解雇回避努力は相関関係が認められることもありえますが,これらと人選の合理性,説明・協議義務は独立した要件といえます。
では,整理解雇の各要件について,具体的に検討することにしましょう。
(3) 人員削減の必要性
人員削減の必要性の程度について,どの程度つよいものを要求するかについては,裁判例も分かれています。
[1]最も厳格に解するものとして,「人員削減をしなければ企業が倒産必至または近い将来の倒産が予見される状況にあること」を要するとするものです。この基準を用いたものとして,前述した大村野上事件(必要性を否定)があります。近年では,ケイエスプラント事件(鹿児島地裁1999(平成11)年11月19日判決・労働判例777号,必要性を否定)があります。
[2]次に厳格なのが,「客観的に高度な経営危機から人員削減措置が要請されること」を必要とするものです。この基準を用いた裁判例として,住友重機玉島製作所事件(岡山地裁1979(昭和54)年7月31日決定・労働判例326号,必要性を肯定)があげられます。
[3]次に,「企業の合理的運営上の必要性があれば足りるとする」とするものがあります。この基準を用いたものとしては,前述の東洋酸素事件(必要性肯定)があげられます。
[4]最後に,「業務の廃止による組織変更のため,ポストがなくなったものがいればよい」とするものがあります。この基準を用いたものとして,後述するナショナルウエストミンスター事件(必要性肯定)があります。
(以上の分類につき,日本労働弁護団著「労働相談実践マニュアル ver.4」日本労働弁護団発行・2004年6月参照)
(4) 解雇回避努力
具体的には,経費削減,新規採用の停止,労働時間短縮,賃金カット,配転,出向,一時帰休,希望退職募集などの措置をいいます。
[1] これらの措置のうち,とくに,希望退職者募集の有無については,重視される傾向にあります。
例えば,興和株式会社事件(大阪地裁1998(平成10)年1月5日決定・労働判例732号)は,会社が解雇予告の際にはじめて解雇に至った経過を説明していることから,「希望退職者を募集したことがないと推認されるところ,(中略)移動に伴う通勤の便宜から退職を希望する者があった可能性もあ」ったとして,会社が解雇回避の努力を尽くさなかったため,解雇を無効としています。
[2] また,配転・出向も,解雇回避措置の重要な内容のひとつです。
東洋印刷事件(東京地裁1999(平成11)年10月4日決定・労働判例788号)では,解雇無効を争ったうちの1名の労働者について,「もともと電算室での勤務は短く,それ以前は営業部門において、営業の補助事務を担当していたこともある・・・(中略)・・・同行指導等,一定の指導・訓練を行えば,営業に従事することも可能であったことは容易に推認できる」として,使用者が解雇回避義務を尽くしたとはいえないとし,解雇を無効と判断しました。
勤務地・職務内容を限定して採用された労働者について,当該勤務地・職務が廃止となった場合,配転を検討すべきかどうかという点ですが,事業者が閉鎖され,当該事業所に現地採用された労働者が,本社への配転を希望していたものの解雇されたという事案で,「配転の可能性が肯定できれば(中略)『冗員』には該当しない」し,解雇回避義務として配転の可能性を検討すべきとした裁判例があります(廣川書店事件・東京地裁2000(平成12)年2月29日判決・労働判例784号)。
[3]
また,新規採用の停止について,あさひ保育園事件(最高裁1983(昭和58)年10月27日第一小法廷判決・労働判例427号)は,整理解雇後の1年のうちに2名の労働者が退職する一方,新たに2名の労働者を採用しているという事案で,整理解雇を無効としています。なお,本件では,「説明・協議義務」の要件についても,「事前に,被上告人を含む上告人の職員に対し,人員整理がやむを得ない事情などを説明して協力を求める努力を一切せず,かつ,希望退職者募集の措置を採ることもなく,解雇日の6日前になって突如通告した本件解雇は,労使間の信義則に反し,解雇権の濫用として無効である」と判断しています
(5) 人選の合理性
整理解雇の対象となる労働者の人選については,客観的に合理的な選定基準により選定されなければならないのはいうまでもありません。
問題は,どのような人選基準を設定すれば客観的に合理的な基準といえるのかです。
[1]
勤務成績を人選基準とする場合,基準の客観性・合理性が問題となります。
例えば「誠実,勤勉,調和」などといった抽象的な基準では,人選が恣意に流されやすくなるため,客観的・合理的基準とはいえません(出島運送事件,広島地裁1978(昭和53)年6月29日判決・労働判例306号)。
人事考課の結果を人選基準とする場合,一般には,客観性・合理性が認められると思われます。例えば,「勤務評定で最も低い評価を受けた原告を選定してなされたものであって,勤務評定という客観的な評価に基づいて最も低い評価を受けた者を解雇するという人選が行われたものである」として,人選基準を妥当とした例(東京都土木建築健康保険組合事件・東京地裁2002(平成14)年10月7日判決・労働経済判例速報1821号)があります。
ただし,単に人事考課を用いればよいというものではなく,人事考課自体に客観性・合理性が要求されるのはもちろんです。「直近3回の勤務考課表の合計点」という基準を用いた場合であっても,その具体的な内容を明らかにする疎明がない」として,相当性・合理性を否定した例があります(朝日石綿工業事件・甲府地裁1987(昭和62)年5月29日決定・労働判例502号)。
[2]
年齢を人選基準とする場合,確かに年齢は使用者の恣意の働く余地がなく客観的な基準といえますが,必ずしも労働者の職務遂行能力と直結する要素でないため,基準として合理性を有するか,問題となります。
高い年齢を用いた人選基準を有効とした判例に,エヴァレット汽船事件(「45歳以上あるいは再建計画による業務整理による余剰人員となる者」・東京地裁1988(昭和63)年8月4日判決・労働判例522号),三井石炭鉱業事件(「年齢53歳以上に達する者」を唯一の基準として使用・福岡地裁1992(平成4)年11月25日判決・労働判例621号)などがあります。
一方,無効としたものとして,ヴァリグ日本支社事件(東京地裁2001(平成13)年12月19日判決・労働判例817号)があります。この事件では,53歳以上の幹部職員に退職を勧告し,拒否した者を解雇したという事案で,「一定の年齢以上の者とする基準は,一般的には,使用者の恣意が介在する余地がないという点で公平性が担保され,また,年功序列賃金体系を採る企業においては,一定額の経費を削減するための解雇人員が相対的に少なくて済むという点においてそれなりに合理性があるといえないではない」としつつも,「本件において基準とされた53歳という年齢は,定年年齢まで7年間もの期間が残存し,残存期間における賃金に対する被用者の期待も軽視できないものである上,我が国の労働市場の実情からすれば再就職が事実上非常に困難な年齢であるといえるから,(中略)早期退職の代償となるべき経済的利益や再就職支援なしに上記年齢を解雇基準とすることは,解雇後の被用者及びその家族の生活に対する配慮を欠く結果となる」「幹部職員としての業務が,高齢になるほど業績の低下する業務であることを認めるに足りる証拠はない」として,人選基準は全体として著しく不合理であるとしています。年齢を基準とすることの合理性を認めつつも,さらに当該基準の合理性を様々な要素を勘案しつつ判断しており,参考となる例です。
逆に,低い年齢を用いた人選基準を無効としたものとして,高田製鋼所事件(「36歳以下で,昭和43年以降入社した者」・大阪高裁1982(昭和57)年9月30日判決・労働判例398号)があります。
[3]
労働者の雇用形態に着目し,パート・嘱託社員等,非正規労働者を正社員よりも先に優先的に整理解雇の対象とすることは,採用形態や処遇に差異があることから,一般的には合理性があるとされています(日立メディコ事件・最高裁1986(昭和61)年12月4日判決・労働判例486号他参照)。
(6) 説明・協議義務
整理解雇では,労働者に帰責性がないことから,使用者は,信義則上労働者・労働組合と協議し説明する義務を負います。説明の内容としては,人員削減を必要とする経営状況,これまでの経営改善努力,今後の経営見通し,人員削減規模の根拠,解雇回避努力の内容,対象の人選基準等が考えられます。
日証事件(仮処分)(大阪地裁1995(平成7)年7月27日決定・労働経済判例速報1588号)では,和議申請の当日及び翌日に,何の説明もすることなく解雇した事案につき,「債務者は,時間的余裕がなく,取り付け騒ぎを招くおそれがあったため説明義務をなしえなかったものであって,手続上不備はなかった旨主張するが,本件解雇に至る経過に照らしても,右主張は採り得ない。和議債権者らの協力を取り付けるため,人員整理に手間取ることは許されなかったにせよ,和議申請後,速やかに説明義務を尽くし,その上で解雇の意思表示をすれば,和議手続の進行に支障はなかったと思われる」として,解雇を無効としています。
(7) 近年の裁判例の傾向
しかし,東京地裁において1999年〜2000年頃,整理解雇の4要件を見直そうとする動きがあり,この判断基準に従わない判例がいくつか出されました。その代表的な例が,ナショナル・ウエストミンスター銀行事件(東京地裁2000(平成12)年1月21日決定・労働判例782号)です。
この事件で,裁判所は,「いわゆる整理解雇の4要件は,整理解雇の範疇に属すると考えられる解雇について解雇権の濫用にあたるかどうかを判断する際の考慮要素を類型化したものであって,各々の要件が存在しなければ法律効果が発生しないという意味での法律要件ではなく,解雇権濫用の判断は,本来事案ごとの個別具体的な事情を総合考慮して行うほかない」と述べ,4要件にそれぞれに該当するか否かの吟味をせずに,諸事情を総合考慮することで,整理解雇を有効と判断しました。
また,菅野和夫「労働法(第7版)」(2005年 弘文堂)432頁は,「整理解雇に関する裁判例の傾向」として,前述の4要素説にたつ判例を紹介したあと,次のように指摘しています。
「人員削減の必要性に関しては,企業の経営判断を尊重して司法審査を控える裁判例が多く,企業が全体として経営危機に陥っていなくても,経営合理化や競争力強化のために行う人員整理に必要性を認める例が増えている(ワキタ事件−大阪地裁2000(平成12)年12月1日判決・労働判例808号,ナショナル・ウエストミンスター銀行事件(3次仮処分),北海道交運事業協同組合事件−札幌地裁2000(平成12)年4月25日・労働判例805号)。
解雇回避努力義務に関しても,各種の回避措置を画一的に要求する判断は後退しており,希望退職者募集につき,同募集によって有能な従業員の退職をもたらしたり,従業員に無用の不安をもたらす場合の募集の必要性を否定する例(シンガポール・デベロップメント銀行事件−大阪地裁2000(平成12)年6月23日判決・労働判例786号)や,解雇回避措置を基本としつつも,それが困難な場合は経済的補償や再就職支援措置で足りると判断する例(前掲ナショナル・ウエストミンスター銀行事件)がある」
しかし,整理解雇に関する判例の動向をみますと,整理解雇の4要件をゆるやかに解釈して解雇を認めようとする立場は,東京地裁の一時期の一部の判決にとどまり,その後広がりを見せていません。たとえば,上記判例の直後に出された三田尻女子高校事件判決(山口地裁2000(平成12)年2月28日・労働判例807号)では,従前通り,整理解雇の4要件に従った判断がなされています。同判決は,整理解雇が有効となるためには,「以上の各要件(注・整理解雇の4要件)すべていずれも充足することが必要である」とし,4つの判断要素が単なる判断要素でなく,それぞれを充足しない限り有効性が認められない要件であることを明確に示しています。そのほかにも,タジマヤ事件・大阪地裁1999(平成11)年12月8日判決・労働判例777号,シンガポール・デベロップメント銀行(本訴)事件・大阪地裁2000(平成12)年6月23日判決・労働判例786号,マルマン事件・大阪地裁2000(平成12)年5月8日判決・労働判例808号など多数あります。
整理解雇の4要件は,依然として整理解雇の有効性を判断する基準として機能していると考えられます。
菅野和夫「労働法(第7版)」(2005年 弘文堂)432頁も,次のように指摘しています。
「ただし,これらの傾向(注・整理解雇についての最近の裁判例の傾向)が整理解雇法理の全面的な規制緩和をもたらしているわけではない。厳格な4要件説を堅持している裁判例もある(九州日誠電気事件―熊本地裁2004(平成16)年4月15日判決・労働判例786号)。4要素説の枠組でも,解雇回避措置や被解雇者選定の合理性に問題がある事案では,それだけを理由に整理解雇が無効とされている(前者としてワキタ事件,後者として労働大学(第二次仮処分)事件−東京地裁1991(平成3)年5月17日判決・労働判例814号)。解雇回避措置についても,配転・出向や希望退職者募集が使用者に期待可能な限りは尽くすべき措置とされている(マルマン事件−大阪地裁2000(平成12)年5月8日判決・労働判例787号。小規模企業ゆえに配転等の回避措置が困難として解雇(雇止め)有効とした例として,ティアール建材・エルゴテック事件・東京地裁2001(平成13)年7月6日判決・労働判例814号)。また,被解雇者選定の妥当性や協議・説明義務も整理解雇の重要な要素として維持されている(組合との交渉が不十分として解雇無効とした裁判例として,京都エステート事件−京都地裁2003(平成15)年6月30日判決・労働判例857号)。
総じて裁判例は,企業間競争の激化や企業再編等の新たな動向をふまえて整理解雇法理を適宜修正しつつ,使用者の恣意的な解雇をチェックする姿勢を堅持しているといえよう(特に,外資系企業の人員削減策としての解雇を4要素に照らして解雇権濫用とする事例が目立つ。ゼネラルセミコンダクター・ジャパン事件−東京地裁2003(平成15)年8月27日労働判例865号,ジ・アソーシエート・プレス事件−東京地裁2004(平成16)年4月21日判決・労働判例880号)。」
(弁護士 根英樹)
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