
「能力不足を理由とする解雇」
質問
私は,突然上司に呼び出され,明日から来なくていいといわれました。理由を尋ねると,「君はミスが多く,仕事ができない」と説明されました。確かに,私は同僚とくらべて業績が見劣りすると思いますが,自分としては,一生懸命がんばってきたので,クビにされるのは不本意です。
このような解雇も有効なのでしょうか。
多くの企業の就業規則では,解雇理由として,労働者の能力が不足していることがあげられています。たとえば,普通解雇の理由として,「勤務成績または業務能率が著しく不良で,向上の見込みがなく,他の職務にも転換できない等,就業に適さないと認められたとき」,「勤務状況が著しく不良で,改善の見込みがなく,従業員としての職責を果たしえないと認められたとき」などと規定されることが多いでしょう。
このような解雇においては,まず,当該労働者の能力や適性が就業規則にいう「勤務成績が(著しく)不良」等に該当するのかが問題となります。しかし,この問題について一律の判断基準を設けることはできず,事案に即してケース・バイ・ケースで判断せざるをえません。
能力・適性欠如に基づく解雇の有効性が争われた判例は数多くありますが,一般的に,判例は,能力・適性欠如に基づく解雇につき,厳しく制限する立場をとっているといえます。
すなわち,理由とされる勤務成績の不良については,不良の程度が著しい場合に限定するとともに,能力や適性に問題がある場合でも,いきなり解雇するのではなく,教育訓練や本人の能力に見合った配置(配置転換)をするなどの解雇回避の措置を尽くすことが必要としているのです。
では,労働者個人の能力・適性欠如を理由とする解雇が問題になった判例をいくつかみてみましょう。
まず,解雇が無効とされた事例として,セガエンタープライゼス事件(東京地裁1999(平成11)年10月16日決定・労働判例770号)があります。
本件は,会社が,大学院卒正社員である労働者Aを,所属未定,特定業務のない「パソナルーム」に配置していたのですが,その後,人事考課平均値が低いとしてAに退職を勧告し,Aが応じなかったところ,就業規則に定める解雇事由である「労働能率が劣り,向上の見込みがないと認めたとき」にあたるとして(通常)解雇したため,Aが右解雇を無効と主張したものです。
本決定は,「労働能率が劣り,向上の見込みがない」という就業規則の規定につき,従業員として平均的な水準に達していなかったとしても,それだけでは不十分であり,「著しく労働能率が劣り,しかも向上の見込みがないとき」に限定して解雇を許容する趣旨であるとして,人事考課は相対評価であって絶対評価ではないから,直ちにこれに当たるとはいえないとしました。
そして,会社が主張する「積極性がない」「協調性がない」等の抽象的理由には事実の裏づけがないこと,また会社が,教育,指導によりAの労働能率を向上させる余地があったのにこれを怠った事実を加えて,本件解雇を権利の濫用にあたり無効と判断しています。
同様に,成績不良による解雇を限定的に解した判例として,エース損害保険事件(東京地裁2001(平成13)年8月10日決定・労働判例820号)があります。
この事件では,長期雇用システム下で長期にわたり勤続してきた正規従業員を勤務成績・勤務態度の不良を理由として解雇する場合の有効性が問題になりました。本件決定は,解雇を有効とするには,労働者の不利益,長期間の勤務継続の実績に照らし,単なる成績不良ではなく,企業経営や運営に現に支障・損害を生じ,また重大な損害が生じる恐れがあり,企業から排除しなければならない程度に至っていることを要するとし,かつ,その他,更正のため注意し反省を促したにもかかわらず,改善されないなど今後の改善見込みもないこと,使用者の不当な人事により労働者の反発を招いたなどの労働者に宥恕すべき事情がないこと,配転や降格が出来ない企業事情があることなども考慮して濫用の有無を判断すべきとし,本件解雇は解雇権濫用にあたり無効と判断しています。
つぎに,解雇が有効とされた例も見てみましょう。能力・適性欠如に基づく解雇が有効とされた判例はあまり多くはありませんが,代表的なものとして,三井リース事件(東京地裁1994(平成6)年11月10日決定・労働経済判例速報1550号)があります。
この事件で,裁判所は,労働者の能力・適性不足が著しいことを,具体的事実に基づき認定した上,会社は何度も労働者を配置転換させたのみならず,労働者の能力及び適性を判断するため,日常業務を約3ヵ月間免除し,研修の機会を与えるなどの措置をとっており,解雇権の濫用にはあたらないと判断しています。
最後に,特定のポストや職務のために上級管理職などとして採用され,賃金等の労働条件において優遇されている場合には,勤務成績の不良の程度は,労働契約で合意された能力,地位にふさわしいものであったか否かの観点から緩やかに判断され,教育訓練や配置転換も問題とされないので注意を要するところです。
このようなケースでは,契約締結時の合意内容がどのようなものであったか,業務遂行の結果が不良であることが本人の責任といえるのか(社内体制など他の阻害要因があるか)が問題とされることになります。
このようなケースの実例となる判例として,ヒロセ電機事件(東京地裁2002(平成14)年10月22日判決・労働判例838号)があります。
この事件では,海外勤務歴に着目し,業務上必要な語学力,品質管理能力を備えた即戦力となる人材と判断して品質管理部海外顧客担当で主事1級の待遇で中途採用された従業員について,長期雇用を前提とする新卒採用とは異なり,採用時に予定された能力を有しておらず,これを改善しようともしない場合には,解雇されてもやむを得ないとされました。
(弁護士 根英樹)
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