
「不当労働行為にあたる解雇」
質問
私は,労働組合の役員として活動していますが,会社はこれを快く思っていないらしく,私を解雇すると通告してきました。
このような解雇も適法なのでしょうか。
不当労働行為とは
労働組合の組合員であること,労働組合に加入し,又はこれを結成しようとしたこと,あるいは正当な組合活動をしたことを理由とした解雇,労働組合を支配し,あるいは介入することになる解雇,労働委員会に不当労働行為の申立をし,証拠を示し,あるいは発言したことを理由とする解雇は,いずれも不当労働行為として禁止され(労働組合法7条1号・4号),解雇の効力は,無効です。
不当労働行為意思
不当労働行為の成立には,「不当労働行為の意思」すなわち「反組合的な意図あるいは動機」を要件として必要とする見解が通説です。
しかし,不当労働行為が法律上明文で禁止されている以上,使用者が組合加入等を正面から理由として解雇することは,通常ありえません。そこで,多くの事案では,使用者の主張する解雇事由が認められるか,それとも,それは単に表向き形式を整えただけのものであって,実態は不当労働行為意思に基づいて行われた解雇なのかが問題になっています。不当労働行為意思に基づくか否かは,使用者の内心の問題で,直接その有無を確認することはできませんから,解雇をめぐる諸事情から判断することになります。
不当労働行為の成否が問題となった事件として,茨木消費者クラブ事件(大阪地裁平成5(1993)年3月22日決定・労働判例628号)をあげることができます。
この事件では,労働組合が団体交渉を行い,一時金要求のストライキも行ったところ,争議自体は地方労働委員会の斡旋により解決したものの,そののち使用者は組合役員らを解雇しました。そこで,組合役員らは,本件解雇は正当な理由がなく,不当労働行為にあたり無効であるとして,裁判所に対し地位保全の仮処分を申請したものです。
決定は,使用者が解雇事由としてあげた事実(とくに,組合委員長は,常習的な遅刻が認められ,就労開始後1年2ヶ月の間に49回もの遅刻をし,たびたび口頭による注意を受け,警告書を交付されていたにも関わらず,その後もさしたる理由と認められないような事情で4回の遅刻を繰り返していました)を認定し,これが解雇事由にあたると認めつつも,結論的には組合役員らの主張を認め,「右認定の債権者ら(注・労働者ら)の組合結成から解雇されるにいたる経過等の事情からすると,債務者(注・使用者)が,債権者らの結成した組合を嫌悪し,茨木消費者クラブからこれを排除しようと企図し,(中略)組合の中核である債権者ら3名を解雇することを決意し,(中略)債権者ら3名を解雇したものであることが明らかである」から,不当労働行為にあたり無効であるとして,地位保全及び賃金仮払の請求を認容しました。
ここで「右認定の事情」とされているのは,@組合結成を通告され,団体交渉を申し入れられた際,使用者は,「おれは組合は嫌いだ。帰ってくれ。警察を呼ぶぞ」などといい,団体交渉を拒否したこと,Aその後も,組合員に対し,「お前らカスや,いややったらやめたらいい,組合なんか聞いたことがない」などの発言をくり返していたこと,B解雇後,ほかの組合員に対し,使用者が「あの3人を解雇したらお前らもやめるとおもっとったなんでやめへんねん。だから段取りが狂ってしもてんねん」などと発言したことなどの事情を指しています。
逆に,不当労働行為の成立を否定した例として,日本工業新聞社事件(東京高裁平成15(2003)年2月25日判決・労働判例849号)があげられます。
本件では,新聞記者であった労働者が支局長に配転されたのですが,赴任したものの支局長としての業務をことごとく拒否し,また記事の出稿依頼も拒否したため,会社により懲戒解雇されたものです。
一審は,配転には業務上の必要性があり,配転による不利益も通常甘受すべきもので,不当な動機・目的もないことから,配転命令は有効であり,業務拒否は懲戒解雇事由に該当するとしましたが,賞罰委員会の手続に瑕疵があるとして,解雇を無効と判断したため,会社が控訴していました。
本件では,支局長として,半年にわたり管理業務を行わず,新聞記者としても80行ほどの記事を1回出稿したのみで,その後の出稿要請を拒否した等の行為は,従業員としての最低限の業務をも放棄したものとして,就業規則中の懲戒解雇事由に該当するとし,賞罰委員会の規定に反しても直ちに解雇が無効になるわけではないとしました。不当労働行為の点については,本件解雇は,救済命令申立事件の審理中に行われたものではあるが,本件解雇には十分な合理性があり,労働組合を結成したこと,その組合員であること,労働組合の正当な行為をしたことの故をもって本件解雇がされたものということはできないとしています。東京高裁は,本件解雇を有効と判断しています。
結局,使用者に不当労働行為意思があるか否かは,様々な事実をもとに総合的に判定するしかありません。菅野和夫「労働法」(第7版・弘文堂2005年4月598頁)は,「この判定においては,使用者の常日頃からの労働組合に対する対応からして使用者が当該労働組合の存在や当該組合員の組合活動を嫌悪していたと認められ,当該不利益取扱いが組合の組織や活動に効果的に打撃を与えていれば,当該労働組合の組合員であることないしは組合活動をしたことの故に当該不利益取扱いをしようとしたとの使用者の意欲が推認されやすい。」としています。
青山会事件
中労委(青山会)事件(東京地裁平成13(2001)年4月12日判決・労働判例805号)は,雇い入れの際にも労働組合の組合員であることを理由に不利益に取り扱うことは不当労働行為にあたると判断した事例です。やや特殊な事例ですが,本件では病院の経営主体が変更される際に,従業員が形式上いったん解雇され,そののち大半の者が新経営主体に雇い入れられており,実質的に全体を見れば解雇と同視することができます。また,労働組合法上,雇い入れは明示されていないにもかかわらず,雇い入れの段階で行った不利益取り扱いも不当労働行為にあたるという判断がされており,重要な意味をもつ裁判例です。
本件は,病院の経営主体が経営譲渡によって移転した際,経営譲渡の当事者間において,旧経営主体が従業員を全員解雇し,新経営主体が従前の従業員を雇用し直すか否かを決定するという契約となっていたところ,労働組合員であった従業員が雇い入れ拒否にあったというものです。裁判所は,本件不採用を労働組合法1条3号に該当する不当労働行為にあたるとした中央労働委員会の命令に違法はないとしています。
不当労働行為の救済手続
不当労働行為にあたる解雇をうけた労働者,またはその所属する労働組合は,裁判所に対して解雇無効確認等の訴訟を行うことはもちろん,これに加えて,都道府県労働委員会に「不当労働行為救済の申立」を行うことができます。
都道府県労働委員会は,この申立に基づいて審査を行い,不当労働行為と認められる場合には,救済命令を出し,認められない場合は申立を退ける棄却命令を出します。この命令に不服な当事者は,中央労働委員会への再審査の申立や,裁判所への訴訟の提起をすることができます。
都道府県労働委員会の救済命令
都道府県労働委員会に対する救済の申立は,行為の日から1年以内に行うことが必要です。
労働委員会は,審問の結果,申立事実に理由があると判断した場合は救済命令を,理由がないと判断した場合は申立棄却命令を出します。
都道府県労働委員会において,使用者の行った解雇が不当労働行為にあたるか否かが争われた具体例として,金融経済新聞社事件(東京地労委平成15(2003)年7月15日命令・労働判例856号。なお,東京都労働委員会の当時の名称は,東京地方労働委員会でした)を紹介します。
この事件では,ある組合員の転勤問題に関して,常務取締役に対し団交を求めた組合副委員長が,興奮して机上の決済箱を跳ね上げたところ,これが電話機にあたり,電話機が常務取締役の顔にあたったため,会社はこの行為を理由に副委員長を懲戒解雇したため,この解雇が不当労働行為にあたらないか,問題となった事案です。
地方労働委員会は,副委員長の行為が常務取締役の態度に誘発されたものであり,同常務に危害を加えることを意図したものではない一方,会社は,本件を奇貨として,団体交渉の開催を迫っていた組合の主要な交渉側のメンバーである副委員長を会社から排除し,組合の影響力を減殺することを狙って懲戒解雇処分を行ったとして,不当労働行為にあたるとしています。
都道府県労働委員会の救済命令に対する不服申立
都道府県労働委員会の命令に不服がある場合,15日以内に中央労働委員会に再審査請求を行うことができます。また,地方裁判所に都道府県労働委員会を被告とした取消訴訟を提起することもできます。期限は命令交付の日から使用者側は30日以内,労働者側は6ヶ月以内です。中央労働委員会の判断に対しても,同様に裁判所に訴訟を提起することができます。
裁判所に対し,労働委員会の救済命令について不服申立を行った実例として,小南記念病院事件(大阪地裁平成7(1995)年12月22日判決・労働判例695号)をみてみましょう。
本件は,使用者の経営する病院に勤務するレントゲン医師(組合の執行委員長)が,はじめ業務妨害等を理由とし,さらに重ねて暴行・傷害を理由として解雇されたため,組合が地方労働委員会に救済の申立を行い,地方労働委員会はこれを不当労働行為にあたるとして救済命令を発しました。そこで,使用者は,救済命令が違法なものであるから取り消すよう,裁判所に求めたものです。
本件のような裁判では,直接「解雇が無効か否か」が争われるのではなく,「解雇を無効と判断した地方労働委員会(現在は都道府県労働委員会)の判断が正当か否か」が争点とされる行政事件のかたちをとっていますから,当事者も,使用者対労働者(あるいは労働組合)という構図ではなく,原告が使用者,被告が地方労働委員会(現在は都道府県労働委員会),被告補助参加人として労働組合となっています。
この裁判では,地方労働委員会の救済命令は適法と判断されました。
まず,業務妨害等を理由とする解雇については,使用者の主張する解雇事由の中には,形式的に見れば就業規則規定の懲戒解雇事由に該当するものもあり,「確かに,これらの行為の中には,医療従事者として不適切な行為や労働組合活動としての相当性に疑問を抱かせるものもある」としつつも,これらの行為は,組合や組合員の利益を擁護し,組合の存立を確保する趣旨で行われたものであるとしました。一方,使用者の側には,組合との間に和解が成立したにもかかわらず,団体交渉拒否や,組合員の降格,配置転換,さらには露骨な組合員排除と受け取られかねない再建計画を示し,それに反発した組合員らを懲戒解雇・配置転換するなど,再三不当労働行為と目される言動があり,本件解雇も組合員を排除することを意図し,その弱体化を図るために行われたものであり,不当労働行為にあたるとして,地方労働委員会の判断を是認しています。
(弁護士 根英樹)
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