|
|
|

知的障害者のリーダーKの労災死亡事件
【東京地方裁判所八王子支部平成15.12.10判決(確定)】
判例時報 No.1845号83頁、労働判例 No.870号50頁
第1.事件の概要
1.KとY1社
(1) Kは1957年5月に生まれ、軽度の知的障害があり、小学校5年〜中学3年まで知的障害児のための特殊学級に在籍した。中学卒業後鉄工会社に3年間勤務したのち、中学時代の担任Aの紹介でY1社に就職した。
(2) Y1社は東京都稲城市にある事業所兼工場が中心的事業所で、ここは病院や介護施設が使用するおむつ専用のクリーニング工場で、大型機械を使用していた。常時110名の従業員を雇用し、そのうち知的障害者が14名、身体障害者が2名であった。常時50名以上の労働者を使用する事業所は労働安全衛生法に基づき安全管理者・衛生管理者・産業医の選任、衛生委員会の設置義務があり、常時100名以上の労働者を使用する事業所は安全委員会の設置義務があり、Y1社はこれをいずれも怠っていた。中小企業についても週40時間制になって3年になるのに週48時間労働のままで、残業手当を支給せず、労働基準法にも違反していた。
2.事件の発生
(1) 本件事故は2000年3月24日に発生した。K(当時42歳)は稲城事業所のダイアパー部洗い部門(大型の機械を使っての洗濯・乾燥・2階への搬送部門)の主任の地位にあり、部下に知的障害の青年B、Cの2名がいた。この部門の責任者は副工場長であったが、副工場長は外出することが多く、本件事故当時も不在であった。洗濯、乾燥後のおむつは傾斜コンベアーによってシェーカー(洗濯物をほぐす直径160pの大型回転機械)に運びこまれるが、シェーカーに入る手前に光センサーの光軸があり、洗濯物がここを通過するとシェーカーが回転する。回転するシェーカーで洗濯物がほぐされた後、エアシューターで2階に吸い上げるシステムになっていた。本件事故発生時、半乾きの洗濯物がエアシューターの入り口でつまり、シェーカーが回転を停止した。
(2) Kは、傾斜コンベヤーのセレクタースイッチを「自動」から「停」に切り替
えて、傾斜コンベヤーを伝ってシェーカーの中に入った。Kはシェーカー内のエアシューター吸込口に詰まった半乾きの洗濯物を除去し、傾斜コンベヤーに戻したためか傾斜コンベヤーの光センサーの光軸が感応し、シェーカーが起動し回転をはじめ、同時にエアシューターも連動して起動した。Kは回転するシェーカー内で全身を打撲し、エアシューターの入り口に頭を引き込まれた。
(3) シェーカー内のドンドンという異常音に気づいたBは機械の停止方法を知ら
ず、2階にいたD(外国人労働者)を呼び、Dが一階に下り非常停止ボタンを押してシェーカーがようやく停止した。
(4) Kは日本医科大学付属多摩永山病院に搬送され、入院したが、3月28日頭蓋内挫傷を直接の原因として死亡した。
3.「自ら機械の中に入った」(自損行為)の壁
4名の弁護士(私、戸舘正憲、杉浦ひとみ、田中省二)で弁護団を組み、Kが亡くなって4日後、Kの家族とともに会社に赴き、工場や機械を写真に撮り、社長や事業所長に説明を求めた。多摩警察署や八王子労働基準監督署にも厳正な捜査を求めた。Y1社の責任追及をする上で大きな関門は、機械の前にKの靴がそろえて置いてあり、Kが機械に巻き込まれたというよりも、むしろ自らの意思で機械の中に入ったと推定された。社長Y2は「何であんなところに入ったのかわからない」と言い、Kの行動を疑問視していた。Kから事故の状況を聞こうにもKは亡くなっており、Y1社に対する提訴の準備を進めるが、困難をきわめた。1年以上がたった2001年7月Kの両親を原告として提訴にふみきり、Y1社だけではなく、社長Y2、副社長Y3の個人も被告とした。Y1社は小さな企業であり、個人責任も追及しておかなければ会社が倒産して弁済されないという可能性を危惧した。社長と副社長については民法709条に基づく不法行為責任を求め、会社に対しては商法(当時)261条3項、同法78条2項、民法44条1項に基づく損害賠償責任と同法717条1項に基づく土地の工作物の瑕疵を理由とする損害賠償を求めた。提訴の段階では正直なところ私たち代理人にも勝訴について必ずしも自信がなかった。
4.審理
(1) Yらは答弁においてKが知的障害者であることを知らなかった、健常者だと思ったと主張して自らの責任を否定した。また機械に欠陥がありYらは無過失であり、事故を予測できなかったとも主張して請求棄却を求めた。このように訴訟は真っ向から対立した形となった。
(2) 提訴直後の2000年8月立川簡易裁判所は安全管理者の選任義務違反でY1社を罰金30万円、社長Y2を罰金20万円に処した。この確定判決と八王子労働基準監督署から送付された災害調査復命書が事案解明の有力な証拠となった。とりわけ八王子労働基準監督署の監督官が丁寧に事故状況や事故の原因を調査しており、同復命書は会社の安全教育が欠落していることを明確に指摘していた。事業所長が異物を取り除くためKの目の前でシェーカーの中に入ったことも明らかにされており、Kが自己の意思でシェーカーの中に入ったことが異常な行動と言えないこともこれらの証拠で浮き彫りにできた。
第2.判決要旨
1.主文(1項)
被告らは、原告に対し、連帯して4529万3506円及びこれに対する平成12年3月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2.裁判所の判断
(1) 安全配慮義務違反の判例法理
最近の労災に関する損害賠償訴訟では、判例が認めてきた安全配慮義務違反による債務不履行責任(民法415条)に基づいて請求するのがほとんどである。判例そして現在では労働契約法5条が認めている安全配慮義務に関しては、地裁、高裁を問わず膨大な数の判例が出ているが、それらを集約した最高裁判例(宿直員殺害事故事件〔川義事件〕:最三小判昭和59年4月10日労判429号12頁)は「使用者は、・・・労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体の危険から保護するよう配慮すべき義務」を負っている、としている。本件は社長・副社長の個人責任に重きをおいたため、不法行為責任の主張となったが、会社に対しては契約責任も重畳的に主張することが可能であり、そうするべきであろう。
(2) 社長・副社長の安全配慮義務
判決はY2、Y3の両代表取締役の義務を次のように認定している。
「これらのY2及びY3の地位及び担当業務の内容、Y1社の規模、稲城事業所・工場のY1社の業務における重要性、Y2及びY3の稲城事業所・工場の業務への関与の度合い等に鑑みれば、Y2及びY3は、Y1社の代表取締役としての職責上、Y1社において、労働者が職場において安全に労務を提供することができるように、人的・物的労働環境を整備すべき安全配慮義務を負っていたものというべきである。」
(3) 具体的な義務違反
[1] Y1社は相模原工場と町田工場を移転し稲城工場に集約したが、その6ヵ月後に本件事故が発生した。Kはそれまで町田工場で働いており、シェーカー、エアーシューター、レシーバーは初めて扱った機械であったが、これら機械の操作について説明、注意がほとんど行われなかった。これにつき判決は次のように指摘している。
「特に、シェーカー、エアーシューター、レシーバーによる工程は町田工場にはないもので、Kがこれらの機械を担当するのは初めてであったにもかかわらず、所長、工場長は、Kに対し、町田工場が移転してきた直後の平成11年10月4日に約2時間、ダイアパー部の運転中の機械を見ながら、とりあえずひととおり、機械の運転方法について説明したのみで、自動洗濯ラインの仕組み(各機械が停止、運転する仕組み等)やトラブル時の対処方法、作業上及び安全上の注意事項(コンベヤー上に乗ってはならないこと、シェーカー内に進入してはならないこと、あるいは、やむを得ず進入せざるを得ない場合には、必ず、エアーシューター制御盤のシェーカー、エアーシューターのセレクタースイッチを『停』にしなければならないこと等)については、何ら具体的な説明・注意を行わなかった。」
[2] 判決はまた予期せぬトラブルに対し、臨機に対応することがKの能力上困難であることを認識しながら、Kが適切な指導、監督をうけられる態勢を整えていなかったと次のように指摘した。
「また、所長や副工場長らは、Kが、ダイアパー部に長年勤務する中で経験で仕事を覚え、町田工場時代は、機械操作にも習熟していたとはいえ、慣れていないことや予期せぬトラブルに臨機に応じて対処することが能力的に困難であると認識していたのであるから、Kを作業に従事させるについて、Kがトラブル時に適切な指導、監督を受けられる態勢を整える必要があったというべきである。しかし、稲城工場では、ダイアパー部の洗い部門を、副工場長のほか、洗濯主任のK、知的障害を有しており、自動洗濯ラインの機械操作を行うことは困難であるとして、これらの機械操作を禁止され、緊急時の機械操作の方法すら教育されていなかったB及びCの4名に担当させていたにもかかわらず、副工場長、あるいは機械操作に精通した者が本件作業現場に常駐し得るように、作業分担や人員配置を工夫することなく、副工場長が不在の間は、漫然と、Kにダイアパー部洗い部門の現場を任せていた。実際、本件事故は、副工場長が相模原工場の片づけのために外出している間に発生したのであって、Kが作業を行うについて、安全確保のための配慮を欠いていたことが明らかである。」
労働安全衛生法は「事業者は、中高年齢者その他労働災害の防止上その就業に当たって特に配慮を必要とする者については、これらの者の心身の条件に応じて適正な配置を行うように努めなければならない」と規定している(62条)。厚生労働省の基本通達は「本条の『その他労働災害の防止上その就業に当たって特に配慮を必要とする者』には身体障害者・出稼労働者等があること」としている(昭和47・9・18基発第602号)。知的障害者がこれに該当することは明らかである。
(4) 責任の認定
「よって、Y2及びY3は、本件事故の発生について、民法709条に基づく不法行為責任を負う。また、Y2及びY3は、Y1社の代表取締役としての職務を行うにつき、Kに対する安全配慮義務を怠ったものであるから、Y1社は、商法261条3項、同法78条2項、民法44条1項に基づき、Y2及びY3の不法行為につき損害賠償責任を負う。」
3.損害
(1) 逸失利益 3332万8645円
[1] 年収額 原告は産業計40〜44歳の男子の平均的年収額5,898,500円を請求
したが、判決は次のとおり中卒者の平均年収の7割を認めた。労働基準法に違反して週48時間労働をさせていたこと、サービス残業であったことを根拠に実支給額を超えて認定したことは評価すべきであろう。
「Kは、平成10年度には232万9468円、平成11年度には224万4858円の給与を得ていたが、これは、Y1社が給与額を算出するに当たり、時間外労働に対する賃金を労働基準法等関係法令に則って算出せず、また、使用者は、休憩時間を除き一週間について40時間を超えて労働させてはならないと労働基準法に定められていたにもかかわらず、Y1社では、本件事故当時ですらなお、所定労働時間が一週間について48時間とされていたことなどにより、労働基準法等関係法令に基づいて適正に算出される金額よりも低額のものとなっていたと認められる。したがって、Kが、本件事故以前にY1社から現実に支給を受けていた金額をもって、Kの逸失利益算定の基礎収入とするのは相当でない。
Kの逸失利益算定の基礎収入は、賃金センサス平成12年第1巻第1表、男性労働者・学歴計・中卒の40歳ないし44歳(Kは中卒の42歳であった。)の平均収入である482万6000円の7割に当たる337万8200円とするのを相当と認める。」
[2] 障害基礎年金 逸失利益の算定の基礎として障害者基礎年金を主張したが、判決は、「Kは、本件事故当時、年額80万4200円の障害基礎年金の受給資格を有していたものと認められるが、障害基礎年金は、主に障害者の生活を保障するためのものであり、支給金は生活費に充てられるべき性質のものであること、障害基礎年金の受給者は、受給者死亡により消滅する一身専属性を有することなどを考慮すると、本件において、支給額相当額を逸失利益算定の基礎に加えるのは相当ではない」として認めなかった。
(2) 慰謝料 2600万円
裁判所はKの人間性を次のように高く評価して2600万円を認めた。
「証拠及び弁論の全趣旨によれば、Kは、知的障害者の社会的自立を目指す本人活動の会である『さくら会』を立ち上げ、同会で中心的に活動し、また、自らが編集委員長をして本を出版するなど、種々の社会的活動を行い、これらを通じて自らの意見を積極的に外部に表明し、周囲の人々にも影響を与えるなど、意欲的に生活していたこと、Kには、交際している女性がおり、本件事故当時、結婚を念頭においてまじめにY1社で働いていたことが認められる。そして、これらの事実に、本件事故の態様、Kの受傷状況及び受傷内容、Y1社におけるKの勤務態度が責任感が強くまじめなものであったこと、Kが両親を扶養する一家の支柱であったこと、その他本件に顕れた一切の事情を総合考慮すると、Kの受けた精神的苦痛並びにKの両親の受けた精神的苦痛を慰謝するには、合計2600万円をもってするのが相当と認める。」
(3) 過失相殺について
判決は次のとおりKの過失割合を2割としたが、やむを得ないと思われる。
「Kが、知的障害を有していたとはいえ、詰まった洗濯物はシェーカー南側に設置された点検扉から取り除くべきであって、シェーカー内に入って取り除くべきものではないこと程度は十分に認識していたものと考えられる。したがって、Kにも、不用意にシェーカー内に進入した過失があるというべきである。
そして、本件事故の発生状況、Kが慣れていないことや予期せぬトラブルが生じた場合に、これに臨機に応じて対処することが困難であったことなどKの能力、Kの上司らにおいてもこれを認識していたこと、被告らの安全配慮義務の懈怠の内容等を考慮すれば、被告らの過失割合は8割、Kの過失割合は2割と認めるのが相当である。」
(4) 損益相殺
判決は労災保険から支給された遺族補償年金前払一時金と葬祭料は損益相殺の対象として控除したが、特別支給金300万円等については、「政府が労働福祉事業の一環として被災労働者の遺族の生活の援護等によりその福祉の増進を図るために行うものである」として相殺を求める被告らの主張を退けた。これは従来の判例コック食品事件(最二小判H8.2.23労判695号13頁)に従ったものである。
第3.事例からの考察
1.初動調査の重要性
私たちは、Kの死亡後直ちに会社、警察署、労働基準監督署に出向き、事実関係の把握につとめるとともに、警察署や労働基準監督署に厳正な捜査を求めた。多摩中央警察署では立件は難しいとの対応であり、私たちもKが自らの意思で機械内に入っていることの弱点を感じていたので、鋭く迫ることができなかった。八王子労働基準監督署に行っても、先の見えない話しの繰り返しでなかなか展望が開けなかった。ただ私たちは、業務上過失致死という刑法犯罪のみを想定していたが、本件では労働基準法や労働安全衛生法などの労働法規違反があり、労働基準監督署の所轄事項はむしろこの部分である。Y1社はこの事件の半年前に別の労働者が労災でケガをした事実があり、その頃から同労働基準監督署はY1社に安全管理者等の選任を求めており、それが充足されないうちに本件事故が発生した。したがって、本件事故は同労働基準監督署にとり、自らの責任も問われかねない側面があり、そのことがY1社に対する徹底した調査として反映した。労働事件では労働基準監督署との粘り強い接触が重要であることを改めて思い知った。
2.証拠保全
医療事故におけるカルテの証拠保全と同じく、労災死亡事件では、出勤簿、タイムカード、業務記録等に関する文書と電磁データの証拠保全は必須である。本件においてはY1会社が任意に開示する姿勢を示し、労働基準監督署の調査も直ちに行われたので、証拠保全手続をとらなかったが、本件においても証拠保全をして万全を期しておくべきであろう。
3.知的障害者のリーダーとして
Kは、33歳の時1990年にパリで開催された知的障害者のための世界会議に参加し、知的障害者が他の人から支援をうけるのではなく、自分で決め、自分で行動することの大切さを感じ、日本に帰って知的障害者の当事者の会「さくら会」を設立した。Kは「私たちにも言わせて」という「元気のでる本」シリーズの編集長となり、他のさくら会の会員とともに自分たちの「きぼう」「しょうらい」「けんり」などに関する多数の本を執筆し、出版した。青年の主張でも知的障害者の代表として積極的に自分の意見をのべていた。さくら会はKが中心となり社会や法律についての勉強会を積極的に行ってきた。私が講演した際さくら会会員と知的障害者ユニオンをつくろうとにぎやかに議論を交わしていたが、ユニオンをつくることなくKが亡くなった。その3ヵ月後に私たち弁護士は働く障害者の弁護団を結成した。障害のある労働者が企業等に自ら要求できないことを代弁する役割を担うためである。
4.減り続ける知的障害者の正規雇用
(1) 正規雇用の減少
Kは労働はきつかったが正規社員であった。Y1社は労働法規に違反していたとはいえ、クリーニング会社の社長も副社長も根は悪い人ではなく、障害者を喰い物にするような人物では決してなかった。特殊学級の担当教師Aの話ではKが勤めていた頃特殊学級の卒業生70名のうち80%は一般企業に就職しており、当時は一般企業の正規社員でないかぎり就職と言わなかったとのことである。ところが今ではこれらほとんどの者は正規社員でなくなっており、70名中2名(うち1名は親族企業)のみである。その背景にはかれこれ10年に及ぶ労働冬の時代の中で、障害のない労働者もリストラで労働市場から追い払われるか、非正規雇用で劣悪な労働条件で働かされている。知的障害の労働者が真っ先に一般企業の労働市場の正規社員から追い払われたのは自然の理である。また、知的障害者に働きやすい中小企業の経営が厳しいことも大いに影響している。
(2)
障害者雇用促進法の改正
今回障害者雇用促進法が改正され、週の労働時間20時間以上30時間未満の短時間労働の障害者を雇用した企業は0.5人分を雇ったことに扱うこととなった。厚生労働省は授産施設など一般労働市場で働けなかった障害者を一般労働市場で働けるようにするための改正であると強調している。しかし、これは障害者を正規労働者にしなくともパートでも法定雇用率にカウントしようとするもので、障害をもった労働者の労働環境を益々きびしくするものである。どうしても非正規雇用も法定雇用率にカウントするのであれば、正規雇用は正規雇用労働者の1.8%、非正規雇用は非正規雇用労働者の1.8%としてあくまで正規雇用枠は確保するべきである。
(3) 知的障害者のリーダーを生み出せない構図
Kが亡くなって8年、この間知的障害のある労働者の労働環境は一層厳しくなった。一般労働市場で正規社員として働く知的障害者が少なくなったためか、知的障害者の当事者の会も以前ほど元気がなくなっている。Kと同じように、人に頼らず自らが社会に発信するリーダーを生み出せない構図ができあがってしまったように思う。
5.文献と判例
(1) 本件についての研究者の分析としては、三重短期大学専任講師小西啓文の「知的障害を有する労働者の死亡事故と使用者の安全配慮義務−Aサプライ(知的障害者死亡事故)がある(労働判例881号5頁、2005年)。
(2) 判例では小西縫製工業事件 大阪高裁昭58・10・14判決(労働判例419号28頁)は、
「精神薄弱者が会社敷地内の寮に住込みで稼働する場合には、精神薄弱者は正常者に比較して判断力、注意力、行動力が劣るものであるから、会社施設の火災など不測の事態が発生したような場合、それが仮令休暇中当該寮から発生したものであっても、精神薄弱者の生命、身体を危険から保護するため、その精神薄弱の程度に応じた適切な方法手段によって安全な場所に避難させ、危難を回避することができるようにする安全配慮義務がある」とした。しかし、当該事例においては、安全配慮義務違反を認めた原判決を取消し、遺族の請求を棄却した。
(3) 安全配慮義務について論じた文献としては品田充儀「使用者の安全・健康配慮義務」(講座 21世紀の労働法 第7巻109頁、2000年)、障害、疾病労働者への配慮義務について論じたものとして水島郁子「疾病労働者の処遇」(同129頁)、水島郁子、石井妙子、井上幸夫「障害疾病労働者への配慮義務」(ジュリスト1317号238頁、2006年)がある。
弁護士 清水建夫
※ この論文は“障害と人権”全国弁護士ネット編「障がい者の人権侵害事例集」(仮題)(2008年7月出版予定、生活書院)に掲載されます。
←戻る
|
|
Copyright(c)2008
Ginzadori-Lawoffice.All Rights Reserved.
|
|